第5章 因縁の余燼
「剣心!?」
「この勝負、抜刀術なら兄貴に分があるが、移動速度は宗次郎の方が上だ…“瞬天殺”に対抗するには、こちらも神速から“天翔龍閃”へ繋ぐ連続技しかない…勝負を決するのは、技の破壊力…」
刹那。
二つの神速が衝突する。
勝ったのは…。
宗次郎の瞬天殺ではなく、剣心の天翔龍閃だった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
剣心は膝をつき、荒い呼吸を整える。
「大丈夫か兄貴」
斗亜は駆け寄り、その場にしゃがみ込んで声をかけた。
「…何とか…宗次郎は?」
剣心は重たい体を引きずるように顔を上げ、左之助と斗亜を見た。
左之助は答えず、顎で静かに示す。
視線の先では、傷だらけの宗次郎が由美の膝に頭を預けていた。
呼吸は浅いが、意識ははっきりしている。
「新月村の時とは…まったく逆の結果になっちゃいましたね…」
宗次郎は天井を見上げたまま、力の抜けた声で言う。
「不殺を貫いたままで、ここまで強くなるなんて…なんか、ちょっとずるいや」
「坊や…あんた…」
由美が言葉をかけようとすると、宗次郎はそっと首を振った。
「間違って組み上げた組木細工を、正しく組み直すには…一度、全部壊さないといけないんですよ、由美さん」
宗次郎は割れ、真っ二つになった刀を見つめ、指でそっとなぞる。
「僕、間違ってたんですね…答えは、この勝負が出してくれた」
そして、由美に向けて微笑んだ。
「正しかったのは…緋村さんの方だった」
剣心はまだ乱れる呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。
「いや…勝負に勝った方、つまり強い方が正しいという理屈なら…それは志々雄の方が正しいということになる」
静かだが、はっきりとした声だった。
「一度や二度の闘いで真実の答えが出るほど、人の生き方は単純ではござらん。そんなものなら、誰も迷わず、誰も道を誤らぬ」
剣心は宗次郎を真っ直ぐに見つめる。
「答えは…勝負の中ではなく、お前自身がこれから背負う人生の中で、罪を償いながら見つけていくものでござるよ」
宗次郎はゆっくりと自分の顔に手を当てる。
「…厳しい人だなぁ、緋村さんは…」
「そうか?」
剣心は、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「簡単に答えをくれないなんて…志々雄さんより、ずっと厳しいや…」
その目に、うっすらと光るものが浮かんだように見えた。