第5章 因縁の余燼
その調子で、戦場の緊張だけが肩透かしになる。
「すみません緋村さんちょっと待ってて下さい。久々に疾走ったら草鞋がホラ」
宗次郎はボロボロになった草鞋を見せる。
剣心の傷口から滴った血が、畳に落ちて黒く染まっていく。
「履き替えてきますから適当に休んでて下さい。えーと確か替えの草鞋は…」
そう言い残し、宗次郎は歩き出す。
由美が怒りながら後を追っていく。
「兄貴…なんで攻撃しなかった?」
「そうだぜ!今のは攻撃しても決して卑怯じゃないぜ闘いの最中にスキを見せる方が悪いんだからよ」
左之助の言葉に、剣心はほんの少しだけ笑みを浮かべる。
その笑いは、疲労と緊張を噛み砕くためのものだった。
「斎藤みたいな物言いでござるな…ただ単にあそこまで堂々とスキだらけにされると却って手が出せなかったでござるよ。それより今のうちに傷の手当をしたい…すまぬが少しサラシを分けてくれ」
斗亜は黙って薬を塗る。
左之助からサラシを貰い、剣心の背へ回す。
指先に触れる血が温い。
剣心の呼吸が、背中越しに震えている。
「あいつ手ごわそうだな…」
「あぁ…」
斗亜が巻き終えたところで、剣心が静かに口を開く。
着物を整えながら、視線だけは前から外さない。
「天性の剣の才能と足の速さ、更に先読みが出来ないときてはな…けど一つわかったでござる」
剣心は襟を正す。
痛みを表に出さないのが、逆に怖い。
「もしかしたらあの青年は感情が欠落しているのではなく、何かが原因して感情を心の奥底に封じ込めてしまったのでは…それも自分でも気付かぬ無意識のうちに…」
「無意識のうちに…感情をね…」
斗亜は短く呟き、胸の奥に引っかかるものを確かめるように黙る。
宗次郎が戻るまでの数息が、やけに短く感じられた。
しばらくして、宗次郎が静かに戻ってくる。
先ほどまでの軽さは消え、足音すら感じさせない。
「来るぞ」
「あぁ…」
「大丈夫か?」
「何とも言えんでござるよ。ただあの青年を倒さねば志々雄の所まで辿り着けぬし、当然薫殿の元へも帰れぬ。全力でいく…それ以外に道はない」
剣心は逆刃刀に手をかけ、一歩踏み出す。