第5章 因縁の余燼
「…暫くは無理だな。痛みを通り越して、体中の感覚が完全に麻痺している…だが頭だけははっきりしている…妙に晴れた気分だ…“天翔龍閃”奥義だけあって大した威力だ。だが多用は禁物だ。あれほどの技なら一回にかかる全身の負担は他の技の軽く数倍になる。その反面、いかに強い技でも敵に全貌が割れれば威力は半減する」
「あぁ、わかっている」
剣心は頷き、言葉を飲み込む。
この場に残すべき感情はない。
ガシャ!!
左之助が通信機を叩き割る。
金属が砕け、乾いた破片が床を転がった。
「これでせいせいしたぜ」
「兄貴!時間がない!」
「先を急ぐぞ!剣心」
左之助と斗亜が声を重ね、剣心を促す。
剣心は一瞬だけ蒼紫に視線を置き、そして踵を返す。
「行け…じきに俺も駆けつける…」
蒼紫の声は弱くない。
剣心は振り返らず、ただ先へ走った。
「由美殿…あれが次の間でござるな」
突き当たりの襖を見ながら剣心が問う。
由美は笑みを作り、指先で示す。
「そうよ。あれが十本刀最強“天剣”の宗次郎のいる間…今度こそあんた達の命運も尽き…」
「おい」
左之助が鼻で笑う。
「前からそいつの名前耳にしてるけど、そんなに強いのか?」
「あぁ…前に兄貴との抜刀術の撃ち合いで、兄貴の逆刃刀を真っ二つにした青年だからな」
「なに!?」
斗亜が淡々と答えると、左之助の目が見開かれた。
その横で斗亜の脳裏に、大久保卿の顔がふっと浮かぶ。
胸の奥が、冷える。
斗亜は襖に手をかけ、一息で開け放った。
空気が変わる。
「お久しぶりです。お二人とも」
宗次郎が笑顔のまま、出迎える。
「ここまでご無事で何よりです。刀は新しいの用意頂けました?」
「今はこの逆刃刀・真打と奥義“天翔龍閃”がある」
剣心は前に進む。
「そして…今度こそ負けるわけにはいかぬでござるよ」
斗亜の胸が、ひくりと跳ねる。
宗次郎と闘うのは自分ではない。
剣心の声が、その現実を確定させた。