第5章 因縁の余燼
空気が張りつめ、呼吸の音すら邪魔に思える。
「勝っても負けても遺恨無し」
「ああ。これが拙者達の最後の勝負」
剣心は逆刃刀を、ゆっくり鞘へ納める。
刃を隠してなお、気配は鋭さを増していった。
「ただ全力を尽くすのみ…」
フッと笑いながら二人を見る。
斗亜の肩の力が、逆に抜けていく。
「ちょっと時計をさがしてくらあ」
「あれ?…そういえばあの道案内の女見ないな…」
「あ…そういえば…」
斗亜の言葉に左之助が部屋の中へ踏み込む。
障子の影、棚の裏、柱の陰。
視線が走った瞬間、由美の姿を見つける。
左之助が掴んだ手元に、小さな通信機が覗いていた。
薄い金属が灯りを弾く。
「やべぇ斗亜!剣心!!この闘い志々雄に筒抜けになってやがる!!」
叫びは届いたが、もう遅い。
二人の集中は切れない。
いや、切らせない。
先に動いたのは蒼紫だった。
踏み込みが床を叩き、空気が裂ける。
「小太刀二刀流回――天剣舞六連ッ」
刃が六つの軌跡を描く。
剣心は一瞬で蒼紫の手元を見切り、体の芯を沈める。
次の瞬間、剣心の姿が消えた。
「飛天御剣流――天翔龍閃!!!」
キンッ。
乾いた一音。
それだけで、勝負の線が引かれる。
剣心はゆっくりと逆刃刀を鞘に納め、蒼紫を見下ろす。
目線の高さよりも、空気の重さが違っていた。
「…また“紙一重”でござったな…」
蒼紫はその言葉を受けて、ゆっくりと目を閉じる。
唇が僅かに歪み、息が漏れた。
「随分とぶ厚い紙一重だ…」
「立てるか?」
剣心が問いかける。
蒼紫は床に仰向けのまま、短く息を吐いた。