第5章 因縁の余燼
ガシィィ。
蒼紫は刃を素手で握り締めた。
血が指の隙間から落ち、床に滴る。
「蒼紫、お前は知っているか」
剣心は声を落とし、しかし確かに届くように言う。
「御庭番衆では今、操殿が“御頭”を名乗っていることを、お前と翁殿との死闘の後…京都と御庭番衆を守るため、お前に代わって、必死に御頭の代役を務めようとしている」
「操は…強い」
蒼紫の声は硬い。
「御庭番衆に関わるのは好ましくないが、あれなら一人でやっていける」
「では…」
剣心は一歩近づく。
「その強い娘が“必ず連れて帰る”と約束した時、大粒の涙をこぼしたことは知っているか。強くても、まだ十と六。彼女は彼女なりに、過酷な現実の中で必死に気を張っていたに違いない」
剣心の声が、刃のように鋭くなる。
「あの真っ直ぐな涙に応えられるのは、この世でお前一人しかいない!!それでも蒼紫!」
剣心は蒼紫の握る小太刀を引き寄せ、叫ぶ。
「お前はまだ逃げ続けるのか!!死んだ四人のせいにして最強の証を隠れみのにして“死”に逃げるのか!!強き心を取り戻せ!!失った誇りを呼び返せ!!観柳邸で止まった時間を動かすのは今だ!!目醒める時は…今だ!!」
しばし二人は、視線を絡めた。
蒼紫の小太刀を握る手に、力が籠もる。
そして…。
ガッ。
蒼紫の拳が、剣心の腹へ叩き込まれた。
「っと!」
後方へ弾かれた剣心の体を、左之助が片手で受け止める。
衝撃が腕に走り、床板がギシッと鳴った。
「蒼紫!」
剣心は息を整えながら名を呼ぶ。
蒼紫は一拍置いて、視線だけを返した。
「…それでも俺はこの闘いに決着をつけねば前には進めぬ」
剣心の口元がわずかに上がる。
その笑みは挑発ではなく、腹の底で固めた覚悟だった。
「この闘いの決着をつけることに拙者は異存ない」
「お。蒼紫の目がかわった」
「ああ。拙者も初めて見る」
斗亜は蒼紫の立ち姿を見据える。
「恐らくあれが観柳に流れ着く更に前の…翁殿が認め、あの四人が敬い、操殿が慕った四乃森蒼紫!!」
二人は互いの間合いを測る。