第5章 因縁の余燼
「お前は全てを捨ててきたと言ったな。だが、捨てるなど誰にでも出来る。簡単なんだ。お前は剣の上では強くなった。だが心の上では…見る影もなく弱くなってしまった」
「…なんだと」
蒼紫の瞳が、初めて揺れた。
「般若…式尉…ベシ見…ひょっとこ」
剣心は一つずつ名を置くように告げる。
「最も信頼厚い四人の壮絶な死…御頭として最強の証を華として捧げたい気持ちは、拙者にもわかる」
剣心は大きく息を吸い、声を張る。
「だが、その言葉は…心を弱くしてしまった今のお前が口にしても。生きることから目を逸らすための言い訳に過ぎない!!心を弱くした今のお前は、四人のためではなく。四人の“せい”にして己の兇剣を振るっているだけだ!!」
蒼紫は目を見開いた。
「…黙れ!!」
バキッ。
拳が剣心の頬を打つ。
剣心はその場で血を吐き、膝をつきかけ踏みとどまる。
「ムキになって否定するのは」
剣心は息を整え、蒼紫を見上げる。
「本人もそれと知らず、自覚している証拠か」
ガッ。
また拳。
怒りの視線が突き刺さる。
「貴様に何がわかる!!」
「…少なくとも」
剣心は耐えながら言う。
「最強の華という目的の陰に隠れて、自我を眠らせ。実から逃げていることはわかる」
蒼紫は蹴り飛ばす。
ドガァァァ!!
剣心は床を滑り、止まる。
それでも腕に力を入れ、立ち上がろうとする。
「…そうやって考えるのをやめなければ」
剣心の声は途切れない。
「四人を死なせた自責に潰される。それもわかる。だが、それでも今のお前が何をしても、四人は浮かばれない」
バキィィ!!
蒼紫がまた殴る。
剣心の体が揺れる。
「効いてるな…」
斗亜は歯を食いしばる。
「強い男に心をえぐられる痛み…それを認めたくない痛み…痛いだろうな…」
「蒼紫…お前が」
剣心は血に濡れた唇で言う。
「いや、お前の弱さがあの四人を“せい”にして、あの四人を悪霊にしている」
蒼紫の手元が揺れ、小太刀が振り下ろされる。