第5章 因縁の余燼
「だが、逆刃は返さぬ。今のままで闘う」
「あぁ…」
蒼紫は小太刀を頭上に掲げる。
その姿は、祈りというより断罪に近い。
「…また詭弁だな…」
ドガッ!!
蒼紫の刃が近くの本棚を叩き割る。
木片と紙が舞い、空気が裂ける音がした。
「相手の命を気づかう闘いで、どうして全力が出せる!」
蒼紫の声が荒くなる。
「お前は幕末の動乱で、常に敵を殺す闘いをしてきたはずだ!だからこそ最強の人斬りとして生き延びた!剣の闘いとは命のやりとりだ!ましてこれは最強を決める闘い!どちらかが生き、どちらかが死ぬ以外…決着はない!」
蒼紫は息もつかず続ける。
胸の奥を燃やすものを吐き出すように。
「俺は生と死の間で修行を重ね、全てを捨ててここに来た!お前も詭弁はやめろ!今ここで、俺を殺す覚悟を決めろ!」
剣心は口元に滲んだ血を、親指の腹で静かに拭う。
その仕草は、挑発ではなく決意だった。
「生と死の間での修行なら、拙者も超えてきたさ。わずか一週間だが…師匠、比古清十郎の元へ戻り、飛天御剣流最後の奥義を会得してきた。そして…“人斬り抜刀斎”に戻らずとも己の全力を引き出す、一つの光明を悟してもらった」
二人の間に、短い沈黙が落ちた。
張りつめた糸が、きしむ。
「また詭弁…か、どうか知りたくば…」
剣心は一歩も引かない。
「拙者と闘ってみることだ」
「闘るしかねぇみてぇだな、四乃森蒼紫」
斗亜が、鋭い視線を蒼紫へ投げる。
「話が噛み合わねぇままじゃ埒があかねぇ。こっちも時間がねぇんだ。剣客同士の強い弱いは…結局、剣でしか語れねぇ」
「そうだぜ」
左之助も口を挟む。
「そもそも挑戦者はあんたの方だろ。四の五の言ってる立場じゃねぇ。挑戦者の方から試合破棄するなら、ここは無条件で剣心の勝ちってもんだ…やい、コラ。剣心」
左之助は剣心に睨みをきかせる。
「修行のことも奥義も光明とやらも、俺は一言も聞いてねぇ」
「すまぬ」
剣心は小さく頭を下げる。