第5章 因縁の余燼
開かれた隙間から、冷たい殺気が流れ出す。
そして、部屋の奥の椅子に腰掛けていた男が、ゆっくり立ち上がる。
「約束のときだ…緋村抜刀斎…」
蒼紫は静かに歩み寄り、剣心の目をまっすぐ射抜いた。
その瞳には、迷いも、救いも、ただ“執念”だけが沈んでいた。
蒼紫の瞳は、もう「人」を映していなかった。
そこにあるのは、剣を振るうための理由だけ。
最強という、空っぽの華。
「蒼紫…変わったでござるな。あまりにも変わりすぎて、とても“四乃森蒼紫”とは思えぬほどに」
剣心の言葉に、蒼紫の眼差しが鋭く細まる。
その瞳には、もはや迷いも躊躇もない。
あるのはただ、張りつめた闘志だけだった。
蒼紫はゆっくりと、小太刀に手をかける。
「変わるさ…」
低く、噛みしめるような声。
「お前を斃(たお)し、“最強”という華を手にするためなら…俺は何にでも変わってみせる。抜刀斎」
「小太刀…二刀流…」
斗亜は目を細め、蒼紫の両手に収まる刃から視線を離さなかった。
剣心は一度、逆刃刀に手をかける。
だが、すぐにその手を離した。
「兄貴!?」
「剣心!?」
斗亜と左之助の声が、同時に上がる。
「…なんの真似だ」
蒼紫の声に、苛立ちが滲む。
「この期に及んで、再戦の約束を破棄するつもりか?」
「約束は守るでござる」
剣心は、まっすぐ蒼紫を見据えた。
「だが、その相手はお主ではござらん。拙者が約束したのは、隠密御庭番衆御頭“四乃森蒼紫”…今、目の前にいるお主ではない」
「…どういうことだ」
「兄貴、無駄だって…」
斗亜が肩に手を置く。
「そいつに説得は通じねぇ。気配でわかる…今のあいつは、戻る気がない」
「そうだぜ!」
左之助も声を荒げる。
「話が通じる相手なら、観柳邸でとっくに終わってる!それでは、もう一つの約束も果たせぬでござる」
剣心は斗亜の手を静かに外す。