第5章 因縁の余燼
「…みんなを信じて今は急ごう」
剣心の声は静かだが、刃のように鋭い。
「ここから迷宮を引き返すよりは…むしろその方が早いはず…」
斗亜が息を呑み、拳を握る。
「…間に合え…」
斎藤のことを置いていく後ろめたさと、葵屋が襲われているかもしれない焦燥が、胸の中で絡み合う。
それでも、剣心は歩き出した。
躊躇いなく。
「着いたわよ。第二の間。この扉をあけたらもう引き返すことは…」
由美が言いかけた瞬間。
「口上は無用でござる」
剣心の足が、躊躇なく扉を蹴り破った。
ドガッ!!
重い木が裂け、金具が悲鳴を上げる。
裂け目の向こうに見えたのは…目。
壁も、床も、天井も。
無数の“目”が描かれた、狂気みたいな部屋。
その中心に、目が描かれた服を着た男が立っていた。
眼帯には大きく「心眼」の文字。
全身から、ねっとりした殺気が滲む。
「ひいふうみいよお…四人ねぇ」
男の舌が口内を舐めるように動く。
声が薄気味悪く笑う。
「安慈の奴では一人でも殺せなかった様だな…ククク。いや結構結構」
「御託はいい」
剣心が一歩踏み出す。
声が怒りで震えそうになる…その瞬間。
ゴッ。
斎藤の裏拳が剣心の頬に入った。
「…っ!」
剣心は頭を擦り、目を見開いて斎藤を見る。
斎藤は煙草を咥え直し、吐き捨てるように言う。
「怒るのは大いに結構だが焦るな阿呆。焦りは余計な緊張を生み、実力を半減させる」
そして、男を鋭く睨んだ。
「こいつは俺が相手する…お前はさっさと先を急げ」
剣心の瞳が揺れる。
“手出し無用”の決闘。
その約束を、斎藤は自分の都合で破った。
だが、それは葵屋のために時間を稼ぐという、斎藤流の最短距離でもあった。
「すまぬ!」
剣心が短く頭を下げる。
「待ちなさい!そんな勝手…」
由美が言いかけた瞬間、「うるせぇ」と左之助が由美を抱えるように持ち上げた。
「暴れるな!今は非常時だ!」
「ちょっ…!下ろしなさいよ!!」
「斎藤~ちったぁ加減しとけよ!」
斗亜が走りながら言い捨てる。
「フン…加減なんて出来るわけなかろう」
斎藤は口元だけでニヤッと笑う。
その声を背に、剣心と斗亜と左之助は次の間へ駆けた。