第5章 因縁の余燼
「お前等は気にならんのか? 十本刀の一人と言っても、あの男は剣客ではない。それが何故、刀剣を携えているのか…」
斎藤は、斗亜の頭にふっと手を置き、いつもの調子で余計な一言を添える。
「まぁ、お前にはわからんだろうけど」
「おい…今のいるか?」
斗亜が睨み返そうとした瞬間、安慈が腰に携えていた刀剣を抜いた。
ギラリと光る刃。
だが、その切っ先は左之助ではなく床に向かう。
ドスッ。
「っ…!」
刀身が石床に突き立った次の瞬間、床の下から尋常ならざる衝撃が走り、左之助の足元から爆発的な力が突き上げた。
左之助の体が、血を撒き散らしながら大きく吹き飛ぶ。
「遠当て!!」
斗亜は思わず声を上げる。
「床下に二重の極みを叩き込み、衝撃を伝導させる間接攻撃…そのための刀剣って訳か」
斎藤が、冷静に状況を理解して言葉にする。
「おおおおお!!!」
「左之!!」
その瞬間、剣心の叫び声が飛ぶ。
左之助は、半ば無意識のような動きで飛び上がり、右手を握り込んだ。
安慈の目が、さのすけの拳の軌道を読み向かう。
二人の拳がぶつかり合い、全力の二重の極みが解き放たれた。
「っらあああああああ!!!!」
左之助の拳は、安慈とは違っていた。
衝撃が重なる寸前に左之助の拳が、ふっと開いた。
ズダンッ!!!
重なった二つの衝撃が上から、さらに五指を一気に弾くことによる第三の衝撃だ。
三重の波が、安慈の肉体を内側から叩き割る。
巨体がぐらりと揺れ、そのまま床板に崩れ落ちた。
「今のは…二重の極みの上に五指を一気に弾くことで、更にもう一つ衝撃を重ねた…」
剣心は目を見開く。
「いわば、“三重の極み”だ」
左之助は、すでに膝をついていた。
自分の拳を見下ろし、苦笑いを浮かべる。
「名前は今思いついたとこだけどな」
安慈は、なおもゆらりと立ち上がる。
足元はふらついている。
それでも右拳は、まだ振り上げられた。
「……」
左之助は、その姿を真っ直ぐ見つめ口元を歪める。
「死んだ子供たちは…救世なんか望んじゃいねぇんだよ…」
安慈に向けられた左之助の静かな声だった。