第5章 因縁の余燼
ごぽ…っ。
真っ赤な血が、大量に口から溢れた。
そのまま、巨体が地響きを立てて倒れ込む。
ド…ン…。
斗亜は目を見開く。
剣心も息を呑んだ。
斎藤は腕を組んだまま、口元をわずかに吊り上げた。
「…勝ったな」
左之助はふらりと揺れ、それでも踏みとどまり、血の涙のような汗を垂らして笑った。
「へっ…言ったろ…負けらんねぇ…ってよ…」
がくっ。
今度こそ、左之助の体がゆっくり倒れていった。
だがその倒れ方は、“敗者”のそれではなかった。
限界を超え、望んだ“殴り合い”をやり切った男の倒れ方。
戦いは左之助の勝利で幕を閉じた。
見物していた斗亜たちが、ゆっくりと階段を下りていく。
石段に残る振動は、まださっきまでの二重の極みの余韻を物語っていた。
「やれやれ…勝ったには勝ったが一か八かのまぐれ勝ちだな」
斎藤がふっと煙の抜けたような声で言う。
足取りは落ち着いているが、その目はまだ戦場の色をしていた。
「…まぁな」
左之助は、肺の奥に残った血の味を誤魔化すように、長く息を吐いてから頷いた。
肩が大きく上下している。
見るからに限界に近い。
それでも、笑みを崩さないあたりが相楽左之助という男だ。
「安慈の右を交差法の二重の極みで返そうとしたのは、確かに一か八かだった…」
左之助は、自分の右拳を見下ろしながらぽつりと続ける。
「だが、あまりの拳の速さにとっさに“極み外し”に切り替えたのは違うぜ。命懸けで二重の極みを会得した拳なら、絶対に出来ると確信してた」
ぐっと拳を握り込む。
皮膚は裂け、血がにじみ、骨のあたりまで鈍い痛みが走る。
それでもこの拳は、今、自分の誇りそのものだ。
「一か八かでも、ましてやまぐれなんかではねぇ…」
言葉と同時に、真っ直ぐ前を見据える左之助の目には、何の曇りもなかった。
由美が、その横顔をちらりと見てから、倒れている安慈の方へ近寄る。
「死んじゃいないわよね…?」
「死んじゃいねぇよ」
左之助は肩で息をしながら、ゆっくり首を振る。
「ただ二重の極みの直撃くらったからにゃ、丸一日は意識が戻らねぇはず…」
そこで、左之助の声が途切れた。
安慈の大きな手が、ぐっと音を立てるように固く握られたのだ。