第5章 因縁の余燼
「出せば外される。だからあえて出さぬ。左之は今、“右手無しの勝機”を探しているのでござる」
「能書きはいいから決めちゃいなさいよ!!」
由美が痺れを切らして怒鳴る。
左之助は肩で激しく呼吸しながら、安慈を睨む。
安慈は溜息をつき、拳を握りしめた。
「…悪あがきもそろそろ気が済んだか?右手だけとはいえ、私がひと月かけて会得した二重の極みの基礎をわずか一週間で会得した男。殺すのは惜しいが…致しかたなし」
安慈の体に、血管が浮き上がる。
まるで化物のように筋肉が膨張していく。
「せめて!我が救世の正しきを身をもって味わい…そして…死ね!!!」
左之助も、右手を握る。
「そろそろ決着がつくな…」
斗亜は息を詰めて二人を見る。
「止めるなら今だぞ」
斎藤が剣心に言う。
「随分心配するでござるな」
剣心は微笑む。
「ぬかせ。心配してるのは、あいつに死なれてお前の士気が落ちると困るだけだ」
斎藤は、ふっと煙草を柱に押し付けて火を消した。
剣心は静かに告げる。
「大丈夫。左之は…負けぬでござる」
その声が、確信に満ちていた。
「「いくぞ!!」」
左之助と安慈が同時に吠え激突した。
「黄泉の狭間から…我が救世を見届けよ!!!!!」
安慈の拳が、空気を裂き、圧倒的な“力”で左之助の腹部にねじ込まれる。
ドガァァァッ!!!
左之助の体が、弓のようにしなって吹き飛びかける。
安慈は顔の前に左手を持ってきて、静かに念仏を唱え始めた。
「ちょっと待てよ…」
左之助の声が、ぐしゃりと潰れた喉から漏れる。
安慈が目を開く。
「念仏唱えるには…まだ早ぇんだよ!!」
バチィッ!!
安慈の背後で、わずかな音が生まれる。
安慈は愕然とする。
「な…!?」
左之助の “右手” が、後ろへ引かれている。
握り、構え、極め…。
二重の極みの“外し”を逆利用した姿勢。
左之助は血を吐きながら、吠えた。
「うおおおおおおおっっ!!!!!」
ドガァァァンッッ!!!
右拳が安慈の胴へ突き刺さる。
腹の奥深くまで震えるような衝撃。
続いて第二撃の衝撃が畳み掛ける。
安慈の全身が硬直した。