第5章 因縁の余燼
「だが、邪魔立てする者は容赦せぬ。…お前はもう少し頭の賢い男だと思っていた」
「そりゃ単なる買いかぶりだ」
斎藤は鼻で笑い、煙を吐き出す。
「っせぇってんだよ!!」
左之助は二人まとめて殴り飛ばしそうな勢いで怒鳴り返した。
そんな中、剣心の声が飛ぶ。
「左之!怯むな!剣術でも二刀流が一刀の技に勝るとは限らん!悪い頭でも考えれば勝機は掴めるはずでござる!!」
「最後の一言いらねぇだろ!!」
左之助はひっくり返りながら叫んだ。
「今ので勝機が見えたぜ」
ギュッと拳を握りしめる左之助の目に、再び炎が灯る。
「(兄貴らしいや…)」
斗亜は口元に苦笑を浮かべた。
剣心の言葉には、いつだって妙な説得力がある。
「勝機だと…愚かな」
安慈の声は静かだが、どこか楽しげでもあった。
「フンッ、あるか無いか…いっちょういくぜ!!」
左之助は駆け出した。
避け・避け・避け。
安慈の拳が風圧で壁を砕く中、ギリギリの間合いを潜り抜ける。
「おらぁぁぁ!!!!」
ドッッ!!!
辺りに衝撃が走った。
左之助の拳が、確かに安慈の胴へ叩き込まれた。
「「「入った!!」」」
斗亜、剣心、斎藤が揃って声を上げる。
安慈の表情は、微動だにしない。
「な…なんだとぉ!?」
左之助の拳の真裏、安慈はわずかに拳を添えていた。
“衝撃の伝導の拍子”を一段ずらし、二重の極みをただの二連撃にまで落としていたのだ。
「もう一度あえて言おう…極めるとは、こういう事だ」
ブワッ!!
安慈の拳が風を裂く。
その一撃の余波だけで、左之助の腹部のサラシが裂ける。
「危ねぇ危ねぇ…まさか二重の極みに外し方があるたぁ…」
ドクン。
ぼた、ぼた、ぼたっ…。
「がはっ…!」
左之助は大量の血を吐いた。
「左之助…っ!!」
斗亜の心臓が強く跳ねる。
これはもう“勝負”ではない。
生命が削れ始めた“処刑”の領域だ。
安慈は静かに言う。
「退け。今回だけはこれで見逃してやる」
敗北を悟ったはずの相手に、慈悲にも見える言葉。
だが“興味を失った獣の宣告”に等しい。