第5章 因縁の余燼
「これで三度目だ。まぐれではなさそうだな」
斎藤がわずかに眉を動かす。
左之助は拳を握りしめ、再び叫んだ。
「下諏訪から京都着くまでの間、百の岩を相手に稽古してきたんだよ!この“二重の極み”は完璧に極めた…降参しろ安慈!!あんたに教わったコレであんたを殴りたくねぇ!!」
剣心も斗亜も、その言葉に心揺さぶられる。
「極めた、だと?」
安慈の声が低く、腹の底から響くようだった。
「驕るな、小僧」
次の瞬間だった。
ドゴォォッ!!!
安慈が肩・肘・膝・拳ありとあらゆる部位で二重の極みを一斉に繰り出す。
床がえぐれ、壁が波打つほどの衝撃。
「…っ…!」
左之助の顔から血の気が引く。
まるで巨獣の咆哮を真正面で浴びたような圧力。
「な…なんて技量だよ…!!」
斗亜の背筋に冷たいものが走る。
斎藤でさえわずかに目を細めた。
「貴様に教えたのは基礎中の基礎…“極める”とは、こういう事だ」
安慈が静かに拳を引く。
「「左之(助)っ!!!」」
剣心と斗亜が同時に叫ぶ。
左之助の体は完全に硬直していた。
安慈がふわりと腕を振り上げた。
「避けろ!!」
斗亜の叫びが空気を裂いた。
その刹那、左之助の体が反射的に横へ捻られる。
ブンッ!!!
安慈の裏拳が空を裂き、床をえぐる。
ザザッ!
左之助は転がりながら距離を取った。
息が荒く、額には脂汗。
それでも目は死んでいない。
「危ねぇ…マジで死ぬかと思った…」
安慈の拳は微動だにせず左之助を捉えている。
圧倒的な技量差。
精神力、覚悟、そして過去の重さ。
“破壊僧”明王・安慈。
その存在が、四人の前に立ちはだかっていた。
「代わってやろうか?」
斎藤はいつもの皮肉交じりの声色で、煙草の煙をふっと左之助に吹きかけた。
「っせぇ!!」
左之助はムキになって噛みつく。
弱ってるくせに反射的に振り返って怒鳴り返す姿は、まさに“相楽左之助”そのものだ。
「お前が私の救世に納得いかないのなら、それで構わん」
安慈は眉一つ動かさず、淡々と告げる。