第5章 因縁の余燼
「明治政府を許さねぇと言ったお前の下諏訪での言葉…その全てが嘘偽りだったとは。正直、失望した」
その言葉に、左之助の額に怒りの筋が走る。
「失望したのはこっちだ!!このクソ坊主ッ!!イカれてヨれて志々雄の破壊活動なんざに手ぇ貸しやがって!てめぇが言ってた“救世”はどーした!!!」
「どうしたも何もない」
安慈はわずかも揺らがない。
「この破壊こそ“救世”の第一歩だ」
「(…救世?)」
斗亜の眉間に皺が寄る。
救いと破壊。
どう繋がるのか、理解が追い付かない。
安慈は胸の前で拳を固く握りしめると、一気に語り出した。
「お前はこの世の全てを“救う”ことが救世と思っているだろう。私もかつてはそう思った。仏道に身を置き、心から願っていた」
だが、と安慈は目を閉じる。
「現実は違う。この世には救うに値しない者が確かに存在する。その者達が、救われるべき者の未来を奪う」
「…!」
斗亜の胸に鈍いものが刺さる。
斗亜自身、幕末では数多の“救われぬ者”をこの眼で見てきた。
だから安慈の言葉には確かに一理ある。
だが同時に、どこか根本が狂っている。
「明治になり、人心は乱れ腐敗し…救えぬ者が溢れすぎた。ならばまず“罰すべき者”を焼き払い、世界を一度無に戻す。そして、救うべき者だけを救い直す…それが真の“救世”なのだ」
安慈は憤怒の化身のような声で吠えた。
空気が震え、斗亜の心臓がひとつ跳ねる。
「この世を破壊し、再生する…それを成す為、私は十本刀“明王”となった!」
そして拳を高く掲げ、安慈が叫ぶ。
「わかるか?相楽左之助!!!」
「わかるわけがねぇだろ!!」
ダッ!!
左之助は一直線に安慈へと飛び出した。
その目は怒りと悔しさに揺れていた。
「てめぇの“救世論”が納得いかねぇ!!そんなの救世じゃねぇ!!ただの気狂いの理屈だ!!」
左之助の拳が突き出されるが…。
スッ。
安慈は軽く体をずらす。
拳は空を裂き、背後の柱に叩き込まれた。
バキィッ!!!
木の柱が粉々に砕け散り、破片が四方へ飛び散る。
「あれは煉獄の時に見せた…」
剣心が静かに呟く。