第4章 因縁の残火
「剣心…これ。ずっと渡しそびれてたんだけど…恵さんから預かってきた。あなたの無事を願う想い…私や恵さんだけじゃない。みんな、あなたの無事を願っているのだから…」
手渡された入れ物を剣心は両手で包み込み、ぎゅっと握る。
息を吐くように小さく微笑んだ。
「ありがとうでござる」
その穏やかな余韻。
「うるぁ薫!!」
スパァァァン!!!
弥彦の竹刀が薫の頭にキレの良い音を響かせた。
「いっ…てぇぇぇぇ!!!何すんのよ弥彦ォ!!!」
「うっせぇ!こそこそ色っぽい話してんじゃねぇよ!」
「色っぽくないわよ!!」
どんがらがっしゃーん、とあちこち物音がし、まるで決戦前とは思えない賑やかさが夜の葵屋に広がった。
斗亜は思わず吹き出す。
「随分と賑やかだなぁ…」
「斗亜…起こしてしまったか?」
剣心が気づき、優しく声をかけてくる。
「いや。十分寝たし、起きちゃってな」
斗亜が肩を竦めると、まだ口喧嘩を続けている弥彦へ剣心が声を投げる。
「なんだかよくわからぬが弥彦。明日は留守の方、しかと頼むでござるよ」
「待てよ!俺は連れてってくれねーのか!?」
「たりめーだろボケ。お前らにもしもの事があったら溜まりに溜まった赤べこの俺のツケ、誰が妙に払うってんだよ?」
「「お前だ!!!」」
左之助の自爆発言に薫と弥彦が同時にツッコミを入れる。
斗亜は腹を抱えて笑った。
「んな無茶な…」
それでも弥彦は引き下がらない。
「俺も絶対行くぞ剣心!!こっち来てから一日も稽古サボってねぇんだ!だから剣心が思ってるよりずっと、ずっと、ずっと強くなってるんだ!!」
その言葉に、剣心はほんの少し目を細め誇らしげに微笑んだ。
「わかっているでござるよ弥彦。だから“残れ”とは言わぬ。だがな…明日拙者たちが十本刀と闘っている間、志々雄側の別働隊が葵屋を襲う可能性はゼロではない」
剣心の声が静かに重くなっていく。
「拙者なりに事前策は打ってあるが…それでも闘いは避けられぬでござろう。だから万が一に備えて、一人でも多く残ってほしい。いざという時の、大事な“防御の力”として!」
弥彦はぎゅっと拳を握った。
悔しさと誇りが入り混じった表情だった。