第4章 因縁の残火
「ふぁ〜…あーよく寝た…」
斗亜は短い睡眠から目を覚ます。
体の疲れはまだ完全ではないが、意識は妙に冴えている。
「(用でも足すか…)」
ふらりと廊下に出た時だった。
ぽつり、ぽつりと柔らかい声が聞こえる。
「ん?」
声の方へ足を向ける。
廊下の曲がり角を抜け、薄暗い縁側の影へ。
月明かりが障子をうっすら照らし、室内には静かな空気が流れている。
「ねぇ剣心…」
「あぁ…」
薫の声だ。
斗亜は気配を消し、そっと耳を澄ます。
「昼間言ってたこと…“あとは心次第”って…あれはどういう意味なの?考えたけどよく分からなくて…」
薫の声は不安げだった。
覚悟の戦、そしてその中にある剣心の心。
大切な人だからこそ、見えない部分が怖いのだろう。
剣心は少し沈黙し、ふっと微笑む気配がした。
「わからないなら…わからないでいいでござるよ」
「よくない!だって剣心の命に関わる事なんだから!」
薫がそう叫んだ時、剣心はどこか嬉しそうに口元を歪ませた。
叱られながらも、胸の奥が温かくなるような、そんな表情だった。
「奥義自体はちゃんと会得したでござるよ。速さを極めに極めた超神速の抜刀術“天翔龍閃”…けど逆刃刀でさえも師匠の命を奪いかけてしまう様に、正直言ってこの技は危険すぎる…」
剣心は静かに目を伏せる。
その横顔には強者としての迷いと、恐れと、それでも進むしかない覚悟が刻まれていた。
「もし斎藤との闘いのときのようにまた我を忘れてしまえば…今度こそ確実に拙者は人を斬り殺す。だからと言ってそれを恐れて力を抑えすぎれば速さが損なわれ、この奥義は奥義たりえない…」
薫は息をのんだまま、言葉を挟めずにいる。
「死闘という極限の間での紙一重の生死を見極め、この奥義を放つ…それが出来て初めて“拙者の天翔龍閃”は完成となる。だから…心次第」
静かな声で言い終えると、剣心はそっと目を閉じた。
しばらくの沈黙。
その沈黙の中で、薫はそっと袖の中から桜模様の小さな入れ物を取り出した。