第4章 因縁の残火
「翁…!」
操は泣きそうな顔のまま翁の手を両手で握った。
「緋村君…そして斗亜君。“頼み事”を一つ、聞いてくれぬか?」
二人にだけ向けられた声音だった。
剣心と斗亜は自然と背筋を伸ばし、その言葉を待つ。
「蒼紫の経緯について…緋村君はどれほど知っておる?」
「詳しくは…。だが操殿の話から、おおよその事は見当がついているでござる」
剣心が真剣な声で答える。
斗亜も静かに頷いた。
翁は目を閉じ、一度深い呼吸をした。
「そうか…ならば話が早い」
翁の声色がわずかに震えた。
「蒼紫は…元々悪い男では、ない。それは幼い頃からずっと見てきた儂がよく知っとる…」
操の手がピクリと動く。
「じゃが…“最強”という二文字に取り憑かれ、善悪の見境すら捨ててしまった今、あやつは儂では止められぬ。このままでは…その血塗られた兇剣の下、犠牲者は際限なく増え続ける…」
斗亜は喉がひゅっと鳴るのを自分で感じた。
翁の瞳は、痛みに満ちていた。
「頼む、緋村君…斗亜君」
翁は二人をまっすぐ見つめる。
「四乃森蒼紫を…君達の手で殺してくれ」
部屋の空気が一瞬で凍りついた。
その言葉に、いちばん心を抉られたのは操だった。
「っ…!」
息が止まったように操の体が震えた。
「不殺を心に誓っている君達には、つらい頼みだとわかっておる。だが今の蒼紫を斃せるのは…君達しかいない。もはや蒼紫は“人”を捨て…修羅となってしまった。修羅に残された安息の地は…“死”のみだ」
「…修羅に…残された安息の地は…死…か」
斗亜は目を伏せ、絞り出すように言葉を繋げた。
翁は深く頷く。
「そうじゃ。終わりにしてやることが…唯一の救いなのだ」
その時だった。
剣心は、そっと微笑んだ。
柔らかく、しかしどこか決意のこもった眼差し。
「翁殿…」
斗亜も剣心を見た。
兄のその微笑みの意味を、斗亜はよく知っていた。
剣心が誰かに微笑むとき、それは「殺す」のではなく、必ず“救い出す”道を探す時の表情だ。