第4章 因縁の残火
「…なんだ、この迫力は…」
操は鼻水まで垂らしながら泣いている。
薫が困ったように肩をすくめる。
「昨夜からずっとこの調子なのよ…。無事だったのは良かったけど…でも本当にあと一歩で危なかったのよ」
「にしても…見事な珍妙な苦悩っぷりだな」
斗亜は苦笑しながら呟いた。
怒りと涙とプライドが全部混じった、操の特殊な泣き方が部屋に響く。
その時、弥彦が口を開いた。
「全身が殺気の塊みたいな、目ン玉だらけの服を着たイカれたオッサンでよ…“心眼”って書いてある眼帯してんだけど、あれ、どうやら盲目みてーなんだよ」
剣心と斗亜、そして左之助が同時にビクッと反応する。
「!…それって、おそらく十本刀の“盲剣”の宇水って奴だぜ」
左之助が腕を組みながら言う。
「知ってんのか?」
「ああ。ホーキ頭が言ってたよ。十本刀の中でも、一〜二を争う手練れ。そんな相手に背後取られて無事って…お前、どういう運持ってんだよ」
操は泣きながら立ち上がり、涙目で叫ぶ。
「ぐや゛じぃぃ!!あたしが…あたしがもっと冷静ならぁぁ!!」
薫が代わりに説明を続ける。
「それがね…安慈ってお坊さんに助けられたの。その後、微動だにせず睨み合うこと約半刻。結局、双方一言も発せずに引き上げて行ったのよ」
「…安慈?」
斗亜は目を細めた。
「あいつ、他の十本刀とは何か違うよな…」
「安慈という男…宇水が攻撃を仕掛けなんだのは、自分も無傷では済まぬとわかったからでござるな。実力的にも十本刀の“三番手”というところか」
剣心が静かに評価する。
「それにしても操が無事で良かった…って、聞いてないしな…」
斗亜が呆れ気味に言うが、操はまた枕を抱えて号泣に戻った。
その横で左之助だけが、ずっと右手首を握りしめて黙っていた。
剣心がその異変に気づく。
「左之…? どうしたでござるか?」
「“奇縁”かよ。ホント、人ごとじゃねぇよな…」
左之助は視線を落としたまま呟いた。
弥彦が呼んでも、返事をしない。
何かを思い出している。
そんな気配だ。