第4章 因縁の残火
「おい斗亜!てめぇはガキの頃から何も変わらねぇな!じっとしてろ!!」
怒鳴られ、斗亜は即座に正座する。
「は…はい!」
「さて…話を逸らしたな」
比古は鋭い視線を向ける。
「何か言いづらいことがあるんだろ。俺はお前らの師匠だ。考えくらいお見通しだ」
剣心は一歩進み、片膝をついて頭を下げた。
「単刀直入に申します。十五年前にやり残した“飛天御剣流奥義”の伝授…今こそお願いしたい」
「断る」
比古は即答だった。
「出て行ったのはお前だ。今さら何を言う」
踵を返した瞬間、剣心が白外套の端を掴む。
「お願い…致します…」
「いいだろう。話だけは聞いてやる」
必死の表情に、比古は小さく息を吐いた。
「つまりだ」
比古は酒を注ぎながら語る。
「斗亜が人斬り時代に殺し損ねた志々雄真実という男が、この国を狙っている。お前らは“人斬り抜刀斎”に戻りつつある。だが戻らずに勝つためには、今のままで更に強くなる必要がある…二兎追う者は一兎も得ず、だ」
盃を置き、低く言う。
「教えたはずだ。“剣は凶器、剣術は殺人術”どんな綺麗事を並べても、それが現実だ。理想と現実、どちらを守るかなど…ただの我儘だ」
比古の声は冷たい。
「やはり十五年前、お前が幕末に身を投じたのは誤りだったな」
十五年前。
「ダメだ」
「師匠!」
「修行に集中しろ」
「今この瞬間も人が死んでいるんです!!」
滝の下で、剣心と比古が激しく言い争った日の記憶が蘇る。
「あの日は一日中口論して、殴り合って…ケンカ別れだ」
比古は指を突きつける。
「結果がこれだ。十四歳の未熟な心は、左頬と心に消えない傷を負い…」
「人斬りと不殺の間で揺れ続ける剣客になった」
さらに視線が斗亜へ移る。
「斗亜お前はもっと悪い。十三歳で飛び出し、腹に深い傷まで背負いやがって」
ギクッと斗亜は肩を震わせ、無意識に腹を押さえた。
「す、すいません…」
予想外の流れに、完全に萎縮していた。