第4章 因縁の残火
「お前が正義を信じて与した維新志士たちは、確かに動乱を収め、この明治政府を築いた」
比古の声は低く、重い。
「だが同時に、自分たちの裏側を隠すため、都合の悪い存在を一方的に闇へ葬った。その結果がどうだ。志々雄という男を、より強大な“幕末の亡霊”として蘇らせ、再び動乱を招きかねない堂々巡りだ」
床を叩く音が、乾いた空気を震わせる。
「間接的とはいえ、兄弟揃ってお前たちは飛天御剣流で幕末の亡霊を生み出す一因になった」
比古は鋭い眼差しで二人を睨みつけた。
「いいか。お前の言う通り、飛天御剣流は時代の苦難から人々を守るための剣だ。だがそれは、どの権力、どの派閥にも属さない“自由の剣”であってこそだ!!」
再び、床を叩きつける。
「自由でなければ、その圧倒的な強さは必ず歪みを生む。代々の継承者が江戸三百年、“比古清十郎”を隠し名としてきた理由もそれだ。権力に利用されぬためだ!!」
吐き捨てるように言う。
「それが分からなかったお前に、奥義を得る資格はない。…やはりお前たちに飛天御剣流を教えたこと自体、間違いだったのかもしれんな」
バッ。
「なんだ今の言い草は!!」
怒気を含んだ声と共に、弥彦と操が勢いよく飛び込んでくる。
「なんだ、お前たちは」
比古は溜め息混じりに二人を見る。
「操殿…弥彦…薫殿…」
剣心は、思わず薫の姿に目を向けた。
「知り合いか?」
「えぇ…」
「まぁ…」
剣心と斗亜は、ほぼ同時に頷く。
「やれやれ、今日は千客万来だな。望んでもいねぇってのに」
比古の言葉に、操と弥彦は露骨に顔をしかめる。
「剣心、斗亜。お前ら、一走りして沢まで水を汲んで来い」
「「は?」」
あまりに唐突な命令に、二人は目を丸くする。
「ここには一人分しか蓄えがねぇ。お前らはともかく、朝までこのガキ共を飲まず食わずにするわけにもいかねぇだろ」
「なんで俺たちが?」
「女子供に夜道を歩かせる気か?」
「いや、そうじゃなくて師匠が行けば…」
「…相変わらずいい度胸だな」
比古の額に青筋が浮かぶ。
「ぐだぐだ言ってねぇで、さっさと行け!!」
「たく…人使い荒いんだからな~」
二人は立ち上がり、文句を飲み込んで沢へ向かう。