第4章 因縁の残火
「人斬りやってた頃、飲んでなかったかのか?」
「飲んでねぇ。あ、一回飲んだか。一口で終わるけど」
「一口?」
斗亜は、なぜか少し胸を張った。
「俺、一口で泥酔できるから。すげぇだろ?」
「そんなことで威張るな」
即座のツッコミ。
斗亜は肩をすくめる。
「昔な、人斬り時代に間違って酒を口にしたことがある」
「間違って?」
「杯と湯呑みを取り違えた。完全に不注意だ」
「…で?」
「一口だ」
斗亜は指で小さく円を作る。
「それだけで終わった~記憶ねぇもん」
「一口で記憶失くすとか、やばいだろ。それ」
「だろ~?」
低く息を吐く。
「後々、同士の奴らに聞いた」
少し間を置いて。
「笑って泣いて、大変だったって言われた…」
斗亜は、両手で頭を抱えた。
「…正直、詳細は聞いてねぇ…聞きたくもねぇ」
新堂は一瞬ぽかんとし、それから吹き出した。
「…人斬りが、一口で記憶飛ばすとか」
「やめろ」
「酒苦手なの、納得だな」
「だろ?」
斗亜は頭を抱えたまま、ため息をつく。
「それ以来、酒には近づかねぇ。制御できねぇもんは怖い」
視線が、斗亜の隣にある蒼雲に向いた。
昼間の言葉が、静かに胸をよぎる。
新堂は酒を一口飲み、低く言った。
「お前にとっちゃ…酒も刀も、似たようなもんか」
「そうだな」
斗亜は答える。
「逃げるためじゃなく、向き合うために蒼雲を持つ」
新堂は徳利を置き、鼻で笑った。
「だったら今夜は飲まなくて正解だ」
「だろ?」
「お前が泥酔したら、俺が面倒見る羽目になる」
「安心しろ、一口も飲まねぇ」
「それが一番だ」
一瞬、視線を逸らして。
新堂は吹き出した。
「…ほんと、妙な元人斬りだな」
「今さらだろ」
炉の火が、ぱちりと音を立てる。
初日の夜は、静かに更けていった。