第4章 因縁の残火
「まぁ…居たな」
「居たなって軽っ!!」
「労咳で死んじまったがな」
カン、と火箸が炉縁に置かれる。
斗亜は一瞬、言葉を失った。
「…そ、そういうのは先に言えよ…」
「聞かれなきゃ言わねぇ」
「いや普通言うだろ…」
気まずい沈黙が落ちる。
新堂は火を見つめたまま続けた。
「刀打ってる間、いつも奥で咳してた。休んでろって言っても聞かねぇ女でな」
少し間を置く。
「最後は笑ってた」
「“あんたが刀打ってる音、嫌いじゃなかった”ってな」
斗亜は目を伏せた。
「…まさ」
「同情すんな」
「するだろそれは」
新堂はふっと口の端を上げる。
「だからな。血のために打つ刀は、もう十分だ」
斗亜は小さく笑った。
「まさ、いい男じゃん~」
「余計なこと言うな」
新堂は斗亜の額を火箸で軽く小突く。
「いって」
「生きて帰ってこい。じゃねぇと、嫁に顔向けできねぇからな」
斗亜は一瞬だけ真面目な顔をして、頷いた。
「…分かってるよ」
炉の火が、静かに揺れていた。
工房の初日の夜は、昼の喧騒が嘘のように静かだった。
炉の火だけが、赤く揺れている。
斗亜は壁にもたれ、じっと火を見ていた。
昼間、新堂から受け取った蒼雲の重みが、まだ掌に残っている。
背後で、徳利を傾ける音がした。
「……」
新堂が胡坐をかき、酒をあおる。
珍しく、肩の力が抜けた顔だった。
斗亜はちらりとその様子を見る。
「お前も酒、飲むか?」
「いや…俺、酒苦手だから」
新堂の手が止まる。
「そうなのか?」
「そうそう」
あっさりした返事。
新堂は眉を寄せる。