第4章 因縁の残火
「いいか、人斬りにだけは戻るな」
斗亜は黙ったまま、新堂を見返す。
「あの頃のお前は…人を斬るたびに死んだような目をしてやがった。刀を振るうたびに、お前の心まで削れていくのを俺は見てきた」
新堂は斗亜の肩に手を添える。
「人を斬って、生きて、また斬って…そんな生き方を、もう二度と見たくねぇ」
新堂は小さく息を吐いた。
「俺は刀鍛冶だ。人を守るための刀は打てても、人の心までは打ち直せねぇ。だからこそ言う。戻るな…あの頃のお前には、絶対戻るな」
斗亜は新堂の話を聞いて息を呑む。
「お前の奥さんとの約束も、息子の笑顔も、全部お前が守り抜け」
斗亜は、しばらく動けなかった。
やがて、蒼雲へ手を伸ばす。
「…ありがとう、まさ」
斗亜は久々の蒼雲を手にした。
「礼はいらねぇ」
だが、その横顔はどこか柔らいでいた。
しばらくの沈黙の後。
斗亜は頭をかきながら、へらっと笑う。
「なぁ…二日ほど泊めてくんない?」
新堂は一瞬固まる。
「帰れ!今すぐ帰れ!!」
「即答!?」
だが、その声は、どこか昔と同じだった。
新堂の「帰れ」は、斗亜がよく知っている調子だった。
本気で追い返す時の声じゃない。
「え~冷たくない?」
「冷たくない!」
そう言いながらも、新堂は工房の奥へ歩いていく。
斗亜は勝手知ったる様子で草履を脱ぎ、後を追った。
「なぁ、布団一枚で我慢するからさ~!」
「たく…二日だぞ」
背中越しに低く言われ、斗亜は一瞬だけ目を見開く。
「いいの!?」
「うるせぇ。勝手に泊まれ」
「やった!」
軽く言ったものの、胸の奥がじんわりと温かくなった。
工房は相変わらず雑然としていた。
刀身、砥石、炭、古い道具。
それらの間に、生活の気配が入り混じっている。
「飯は?」
「残り物でよけりゃある」
「上等」
斗亜は腰を下ろし、蒼雲・鎮の折れた刀身を見つめる。
新堂はそれを一度も視線に入れず、火の具合を確かめていた。