第4章 因縁の残火
京都の町はずれ。
人通りの少ない路地の奥に、古びた鍛冶場が一軒だけ残っている。
刀を打つ音はしない。
炭の匂いも薄く、まるで時間が止まったかのようだった。
斗亜は戸の前に立ち、少しだけ間を置いてから拳を当てた。
ドン、ドン。
「いるだろ~!」
返事はない。
斗亜は肩をすくめ、もう一度、今度は遠慮なく叩く。
ドンドン。
「まさ~。無視は酷くないか~?長い付き合いだろう~?」
中で足音がする。
ガラッ。
戸が少し開き、ぼさぼさ頭に無精ひげの男が顔を出した。
新堂正隆。
人斬り時代からの知り合いで、斗亜が「まさ」と慕って呼ぶ刀匠だ。
無言で斗亜を一瞥し…。
「おー!まさ~!!」
バタン。
戸が閉まった。
「えっ」
斗亜は一瞬きょとんとし、すぐに戸を叩く。
「ちょ、まさ!?今のは酷くない!?」
しばらく沈黙。
やがて、ガラリと戸が開く。
「うるせぇな…入れ」
それだけ言って背を向ける。
「最初からそう言ってくれよ」
斗亜は苦笑しながら中に入り、戸が閉まった直後、ようやく声を弾ませた。
「まさ~!久しぶり~!」
「うるせぇ」
新堂は振り返らず、工房の奥へ歩いていく。
「感動の再会ってやつじゃない?」
「そんなもん期待するな。それより用はなんだ?」
斗亜は無言で腰へ手を伸ばした。
そこに差していた刀を外し、鞘ごと新堂へ差し出す。
「ちょっと、これ見てくれ」
新堂は怪訝そうな顔で受け取る。
「蒼雲か」
新堂は、嫌な予感がした。
静かに鯉口を切る。
すっと刀身を引き抜いた。
その瞬間に、新堂の動きが止まった。
「…っ」
息を呑む音が、聞こえる。
刀身は真っ二つ。
蒼雲は丁度真ん中から無残に折れていた。
「斗亜…」
低く、震える声。
ゆっくりと斗亜を見る。