第4章 因縁の残火
「さて…」
斗亜が伸びをするように肩を回した。
「俺、ちょっと寄るところがあるから…」
何気ない調子で言い、剣心とは逆の道へ足を向ける。
「斗亜」
低く呼び止める声。
足が止まる。
振り返らないまま、斗亜は肩越しに問い返す。
「なんだよ」
「お主も師匠のもとへ行くでござるよ」
その一言で振り返り、斗亜の眉が露骨に歪んだ。
「えー。別に用事ないもんよ…」
「お主の事だから奥義も教わってなかろう」
剣心の視線が突き刺さる。
図星だった。
斗亜は舌打ち混じりに頭を掻く。
「わ…わかったよ…ったく…」
観念したように頷き、再び歩き出そうとする。
だがその足は、やはり剣心とは別の道を選ぼうとしていた。
「斗亜」
もう一度呼び止められる。
今度はすぐに振り返った。
「知り合いの刀匠の所に行ってくるよ」
腰の刀を指差し、ぶっきらぼうに言う。
だがその目は、どこか決意を帯びていた。
折れた刀。
張との戦い。
自分の未熟さ。
すべてを思い出している目だった。
剣心は何も言わず、ただ小さく頷いた。
「そうか…」
それだけで十分だった。
その時…。
「コラ緋村!緋村弟!あんたたち、新月村の栄次に“幸せになれ”って言ったでしょ!それ、あんたたち自身にも言えることなんだから!一人で全部背負い込んで、あんたたちが不幸になる結末なんて、あたしは絶対認めないからね!忘れんじゃないわよ!このバカヤロウ!!」
操の声が、葵屋の二階から通りへ降ってきた。
朝の空気を震わせるほどの大声だった。
通りの人々が何事かと見上げる。
斗亜は思わず足を止め、空を仰いだ。
口元だけで笑う。
「相変わらずうるせぇな…」
だがその声は、どこか軽かった。
京都の空は高く澄んでいる。
斗亜は大きく息を吐き、歩き出した。
「さて…久しぶりに行ってみるか…志々雄…待ってろよ」
静かに呟いたその声は、もう迷っていなかった。