第4章 因縁の残火
「なんだそれなら心配いらないわ!あたしには般若君直伝の拳法があるんだから!伊織ちゃんみたいにはならないって!」
操が胸を張る。
だが斗亜の声が、その勢いを止めた。
「いや…志々雄一派から見れば、操も伊織と同じだ」
操の顔が一気に曇る。
「もうこれ以上、誰一人危険に晒したくない…。これから先は拙者と斗亜、二人だけの闘いでござる」
剣心が、はっきりと告げる。
二人は立ち上がり、静かにふすまを開けた。
翁はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いて頷く。
「わかった、緋村君…斗亜君…君たちの考えを尊重しよう。もう一人の探し人、比古清十郎について何か分かり次第、狼煙を上げて知らせる。古いやり方じゃが、これが一番確実じゃ」
「かたじけないでござる」
「世話になりました」
二人は揃って頭を下げ、そのまま部屋を出ようとした。
「なんか…急に、緋村たちよそよそしくなった。自分が人斬り抜刀斎だって知られたから?あのねぇ!人の過去にあれこれ言うほど、あたしはヤワじゃないの!あんたたちがどんな人間でも、あたしが出会ったのは人斬りじゃなくて流浪人の緋村たちなんだから!!」
操の声は怒鳴っているのに、どこか震えていた。
置いて行かれる寂しさと、認めてやりたい気持ちが入り混じっている。
その言葉を受けて、剣心の口元がふっと緩んだ。
ほんのわずかだったが、確かに笑っていた。
「何がおかしい!!」
頬を膨らませ、操が詰め寄る。
「東京で別れた女性も、以前同じようなことを言ってくれたでござるが…まさか古巣の京都で、同じ言葉を聞くとは思いもせなんだでござるよ。蒼紫のことも何も語れず、すまなかったでござる」
剣心の声は穏やかだったが、その奥には深い感謝が滲んでいた。
「あんたなんかに頼らなくても、一人で探してみせるわよ!」
少しだけ視線を逸らし、操は強がるように言い切った。
パタン。
静かな音を立てて、葵屋の戸が閉まる。
二人の背中が通りへと溶けていった。
朝の京都は、まだ人通りもまばらだ。