第4章 因縁の残火
その横で、青空がぼう然と逆刃刀を見つめている。
「逆刃刀…父の最期の一振りが…分からない…。殺人剣ばかり造っていた父が、なぜ…」
その声は、困惑というより恐れだった。
ピシィィィィィ!!!
白木の柄に、鋭い音が走る。
細い亀裂が蜘蛛の巣みたいに伸びた。
ガッ。
剣心は手にしていた逆刃刀を、静かに地面へ突き立てた。
「えっ!?俺、早速壊した!?」
「心配はいらん。刀身に異常はない」
翁が確かめ、安堵の息をついた。
「これは…」
柄がすべて剥がれ落ちると、内側に刻まれた文字が姿を現した。
葵屋。
「我を斬り…刃…鍛えて幾星霜…子に恨まれんとも孫の世の為…」
斗亜は刻まれた言葉を、ゆっくり読み上げる。
読み終わると、胸の奥がじわりと熱くなった。
「己を斬る覚悟で刀を打ち続けた幾年月…それが我が子に恨まれようとも、その先の孫の世の為に、か…」
翁は静かに頷く。
「おそらく赤空は、辞世の句のつもりでこの言葉を刻んだのじゃろうな」
青空の目が震え、やがて伏せられた。
「父は途中で気付いてたんですね…刀が時代を創るなんて、ただの驕りだって…」
斗亜はその言葉を、目を伏せたまま聞く。
「けれど幕末は動乱の真っただ中…立ち止まることも、悩むことも許されないほど混乱していた。刀匠として父は、ただ前へ進むしかなかった…一刻も早く平和な時代が来ることを願って、殺人剣を打ち続けるしかなかった…。その生き方は、端から見れば矛盾そのもの…そんな父が、深い悔恨と、ほんのわずかな希望を祈りとして込めたのが…この御神刀…逆刃刀・真打です」
「真打?」
操が首を傾げる。
青空の妻が、静かに頷いた。
「御神刀は一本だけでなく、あらかじめ二本、あるいは複数本打つのが習わしです。その中で最も出来の良い一本を真打、残りを影打と呼び、奉納したり、人に譲ったりするのです」
「なるほど…じゃあ逆刃刀は、最初から二本…」
操が小さく呟き、斗亜も頷いた。
青空は剣心へ、まっすぐ頭を下げる。