第4章 因縁の残火
「斗亜には、あの刀は抜けぬでござる。あれが真剣ならば…斗亜はまた、人斬り抜刀斎に戻ってしまうかもしれん…」
「人斬り抜刀斎っ!?」
操が息を呑んだ。
「くそ…」
斗亜は逆刃刀を握り直し、肺の奥まで息を入れてから吐いた。
掌の中の冷たさが、妙に落ち着く。
「あんた…人斬り抜刀斎やろ。人斬るのに、なんでそんな躊躇しとんのや。忘れた言うんなら、このワイが思い出させたるわ。実演付きでな」
張はわざと舌を鳴らし、言葉をねじ込むように続けた。
不敵な笑みのまま、視線だけを背後へ流した。
そこにいるのは伊織だった。
「「伊織!!」」
青空夫妻の悲鳴が重なる。
空気が一気に張り詰めた。
「あんたの言う平和の申し子から先に解体したるわ!!!」
その言葉が落ちた瞬間、斗亜の中で何かが燃え上がった。
怒りだけじゃない。
守るべきものが目の前にいるという確信が、体を動かした。
「おおおおおおお!!!!」
叫びと同時に、斗亜は張へ踏み込んだ。
「斗亜!!?」
剣心の声が跳ねる。
「かかったなこのダボがぁ!!」
張が笑った。
挑発が効いたと、そう言い切る声だった。
「いかん!今のは挑発じゃ!!」
翁の声が重なる。
だが斗亜の目は揺れていない。
張は大蛇の軌道で薄刃を繰り出した。
しなる刃が裏から表から逃げ道を塞いでいく。
その切っ先が、斗亜の背後を串刺しにせんと迫った瞬間。
斗亜は体を捻った。
紙一重。
だが避けるのではなく、軌道をズラすための紙一重だった。
刃のしなりが追う前に、斗亜の鞘が刃の腹を弾き、返しの角度を殺した。
「え?」
張の口から、間の抜けた声が漏れる。
さっきまでの狩る側の余裕が、一瞬で剥がれた。
「あれは…飛天御剣流…龍巻閃・旋っ!」
剣心が息を呑む。
斗亜の動きが、飛天御剣流の型そのものになっている。
「なんや!?今の反応…さっきとは別人やないか!!」
張が吠える。
だが吠えた時にはもう遅い。