第28章 選んだ未来
「あぁ⋯⋯? 何だお前⋯⋯なんで出ていかなかった」
怪訝に睨みつけると、のっそりと立ち上がった赤毛に茶色の角の猛獣が、近くへ来る。
推定100歳近い、売れ残りの希少種だ。
純血でないために、施設の中では長く留まっていた。
「行くとこねえのか? 可哀想になぁ。俺もだよ馬鹿野郎。⋯⋯じゃあな」
ヴィレイニはそのへんの瓦礫を蹴り上げ、立ち去ろうとした。
しかし後ろから軽やかな男の声がかけられる。
「おい、お前。俺を連れてけよ。役に立ってやるぜ」
振り返るとそこには、筋骨たくましい裸の男が立っていた。赤髪で茶色い角も生えている。
顔立ちは整った軟派な風貌だったが、ヴィレイニは大きく顔をしかめる。
「お前人化出来んのか。うーん、美女だったら即持ち帰るんだけどよお⋯⋯男かよ。⋯⋯俺獣の世話嫌いなんだよな」
渋る男に、赤髪はにやりと笑う。
「俺は大人だぞ? 世話は自分でできるからいらねえ。けどよ、ひとつ頼みがある。⋯⋯あんた強そうだから、俺を幻獣にしてくれねえか?」
「⋯⋯幻獣だぁ? なんのために」
そんな七面倒くさい施術を欲しがる理由を、率直に聞く。
すると答えはシンプルだった。
「怪我して無理やりここに連れられて来たけどよ、知らねえ奴に狙われんのはもうごめんなんだよ。⋯⋯俺は自由になりてえ。好きな姿になって、好きに生きたいんだよ」
裸の男のまっすぐな主張を聞いていたヴィレイニは、とくに心動かされない表情だったが、たまらずローブを投げてやった。
「⋯⋯なんかよくわからんが、人化出来るなら役に立つか。タダでずらからねえぞ、俺は。くっくっく、一匹くすねてやる、俺のもんだ!」
不気味に笑い、「ついてこい」と短く言った。
赤髪の顔つきが一瞬希望を持ったのを、ヴィレイニは知らない。
「お前名前とかあんのか?」
「ねえよ」
「ないのかよ! どうやって生活してきたんだ」
「誰も呼ばねえ、呼ばれねえ生活だよ」
「はっ! 最高じゃねえかよ。面倒くせえから自分で考えろ、今日中にな」
終始ぞんざいなヴィレイニの背中は、なぜか赤髪の獣には、大きく見えた。