第28章 選んだ未来
二十年前。ヴィレイニは、魔界の希少種を保護育成する施設の職員だった。
人間の青年である彼は、恐ろしく強い魔術師だったが、嘘つきで手癖も悪い。
当時知り合った魔女との取引に失敗し、その魔女が途方もない強さの吸血族だと判明してから、捕まって働かされているのだ。
「あんのクソババア、俺の取り分がたったの一割だと? ふざけやがって。三割にしといてやる。こっちは命がけで猛獣たちをシゴいてやってんだよ」
勝手に契約書類を書き直し、彼は控室から出ていった。
今日は里親を希望する、新たな貴族の訪問がある。またいいカモが来たとヴィレイニはほくそ笑んでいた。
そして実際、高級服に身を包んだ銀髪の美男子を愛想よく案内してやった。
「――では私は書類の方を作成してきますので。ごゆっくりどうぞ」
黒く長いローブをまとい、そそくさと猛獣のホールを出ていく。
格好つけたいけ好かない若者だったが、金に糸目はつけなそうだ。
魔女に借金を返し、とっととこんなむさ苦しい職場を出てってやる――。
ヴィレイニはずっとそんなことを目論んでいた。
一方、ホールでは公爵が一匹の小さな獣を見つけていた。
青い毛の幼獣だが、二人は何か引かれ合うものがあったようだ。
「ふふふ。お前にするか。よし、もう一度立ってみろ。俺にアピールしろ」
楽しそうな銀髪は、小さな獣ともう打ち解けている。
「⋯⋯⋯⋯」
そんな様子を、とある一匹の成獣が遠くから見つめていた。
上機嫌に戻ろうとしたヴィレイニの耳に、妙な騒音が届く。
金属が激しく鳴り、建物が壊される音だ。
異常を察知し別棟から急いで出ていくと、猛獣たちがいたホールが、焼き払われていた。
中はもぬけの殻で、頑丈な結界に封じられていたはずの裏口も破壊されている。
「⋯⋯なっ⋯⋯うそだろ⋯⋯ありえねえんだが⋯⋯」
顔面蒼白の若きヴィレイニは、屈強な体で呆然と立ち尽くす。
そして段々と怒りに支配されていった。
「終わった⋯⋯クソが⋯⋯あのイカレ公爵野郎⋯⋯ぶっ殺すッ!!!」
体中からどす黒いオーラを発し、ローブを脱ぎ捨てた彼の鎧姿が光る。
すると、視界の片側に赤いものが見えた。
振り向くと、一匹の獣が残っていた。