第41章 【第三十六話】記録者の帰る場所
それなのに、この夢の中のアレンには、それがない。
ただラビを揺さぶるためだけに作られた、雑な幻。
「……バレてんだよ、ロード」
ラビは、倒れたアレンへ足を向ける。
その時ぐらり、と足元の水が、再び意識を引きずり込もうとした。
視界が、滲む。
夢の底へ、もう一度、沈みかける。
「――させるかよ」
ラビは、手にしたナイフを、自分の腕へ突き立てた。
鋭い痛みが、走る。
血が滲む。
その痛みだけが、夢へ流されかけた意識を、強引にこの場へ縫い留めた。
視界が、はっきりする。
もう、揺らがない。
「夢の中の傷くらいで、正気が買えんなら」
低く呟く。
「安いもんさ」
ラビは、倒れたアレンを見据えた。
「お前がアレンを、そんなふうに扱うわけねぇ」
水を蹴る。
倒れた“アレン”の胸へ、刃を振り下ろす。
――その瞬間。
砕けていく夢の境界の向こうへ、ラビの意識が一気に引き上げられる。
息が、戻る。
崩れかけた、塔の最上階。
ラビの手の中で、鉄槌が熱を帯びていた。
少し離れた場所に、ロードが立っている。
「……悪ぃな」
ラビは、低く笑った。
「こんなとこで、寝てる場合じゃねぇんだ」
鉄槌を握り直す。
「これは、オレの未熟さのせいさ」
夢に呑まれかけた。
仲間の幻に、揺さぶられた。
その落とし前は、自分でつける。