第41章 【第三十六話】記録者の帰る場所
滲む視界の向こう。
無表情のまま自分を見下ろす“ティファ”。
その姿を、睨むように見据える。
「……違ぇ」
掠れた声が、血と一緒に零れた。
「お前は……ティファじゃねぇ」
その瞬間、幻のティファの輪郭が、ほんの僅かに揺らいだ。
胸のナイフを、自分の手で握る。
「“さよなら”じゃねぇ。あいつは、“行ってらっしゃい”って言うんだよ」
引き抜く。血は出ない。
痛みも、もうない。
最初から、そこに傷などなかったみたいに。
刃を、握り直す。
そして、一切の迷いを断ち切るように水を蹴った。
薙ぎ払う。
刃が、幻の輪郭を、深く裂いた。
抵抗はなかった。
手応えすら、ほとんどない。
まるで、最初から、そこに何もいなかったみたいに。
ぐずぐずと、偽物のティファが溶けていく。
最後まで、その瞳は何も映さなかった。
本物なら、絶対にしない顔のまま。
「……はぁ」
ラビは、長く息を吐いた。
水面に映る自分が、少しだけ、ラビの顔に戻っている。
視線を巡らせる。
水場の向こう。倒れたアレンの姿が、目に入った。
幻だと分かっている。
けれど、違和感が消えない。
ロードは、アレンに執着している。
あの無邪気な笑顔の奥に、歪んだほどの愛着を隠していた。