第40章 【第三十五話】インクの檻
ティファは照れ隠しみたいに少し視線を逸らす。
それでも袖は離さないまま、小さく続けた。
『帰ってきたら、ちゃんと抱きしめて』
その言葉に、ラビの呼吸が一瞬止まる。
ティファは自分で言っておきながら少しだけ耳を赤くして、困ったみたいに笑った。
『……だから、置いていかないで』
言葉が、深い場所まで沈み込んだ。
あの時、自分は何て返した。
いつもみたいに笑って。
「りょーかい、お姫様」
なんて軽口を叩いて。
照れたティファに小突かれて。
そんな、どうでもいいやり取りをして――。
それなのに。
「……っ」
息が乱れる。
胸に刺さったナイフより、ティファの声の方が痛かった。
『置いていかないで』
脳裏で、あの夜の声が何度も響く。
ラビはとっくに知っていた。
ティファを選んだ時点で、自分はもう“ブックマン”だけではいられないと。
そんなこと、分かっていた。
それでも選んだ。
ティファの隣を。
あいつと生きる未来を。
なのに――。
「私、信じてたのに」
静かな声が落ちる。
心臓を直接掴まれたようだった。
守るって決めた。
絶対、一人にしないって思った。