第40章 【第三十五話】インクの檻
「私が“大丈夫”って言ったから?」
ティファが少し笑う。
寂しそうに。
「ラビ、そういうの……信じちゃうもんね」
その言葉が、刃みたいに刺さった。
――ほら見ろ。
――お前は結局、“選んだ”んだ。
もう一人のラビが嗤う。
「違……」
「私、待ってた」
ティファの声が重なる。
「戻ってきてくれるって」
違う。
そんな約束は――。
脳裏に、別の夜が浮かんだ。
『……ちゃんと帰ってきてよ』
静かな夜だった。
任務へ向かう直前、ティファがふいにラビの袖を掴む。
普段なら軽く笑って離すくせに、その時だけは指先に小さく力が入っていた。
『貴方、また無茶するつもりでしょ』
呆れたみたいに言うのに、声はどこか甘い。
ラビが「オレそんな信用ない?」と笑えば、ティファは少しだけ唇を尖らせた。
『ないわけじゃないけど……心配になるの』
アイスブルーの瞳が、真っ直ぐこちらを見る。
逃がさないみたいに。
『だって私、貴方が帰ってこないと……ちゃんと眠れないもの』
息が、少しだけ浅くなった。