第40章 【第三十五話】インクの檻
「うっせぇよ……」
ラビは俯いたまま吐き捨てる。
震える指で、鉄槌を握り直す。
「オレは……」
水面に映る自分を睨む。
「オレは、ブックマンだ」
そう言ったはずなのに。
脳裏に浮かぶのは、記録じゃない。
銀色の髪を揺らして笑う、一人の女性だけだった。
「……ラビ」
掠れた声。
胸元で握られていたのは、大きなナイフだった。
血に濡れた銀髪。
揺れる睫毛。
その姿は間違いなくティファなのに、どこか決定的に冷たい。
ラビの呼吸が止まる。
「ティファ――」
名前を呼び切るより早く、彼女は一歩踏み込んでいた。
いや。
一瞬だった。
気づいた時にはもう、距離が消えていた。
「っ……ぐ、」
身体が動かない。
避けられない。
とす、と軽い音を立てて、小さな身体が腕の中へ収まる。
同時に、胸へ鈍い衝撃が走った。
「……ご、ふッ」
熱いものが喉を逆流し、ラビの口から真っ赤な血が溢れる。
視線を落とす。
胸に深々と突き立ったナイフ。
その柄を握っているのは――ティファの手だった。