第40章 【第三十五話】インクの檻
浮かぶのは、くだらない記憶ばかりだった。
団服の採寸。
騒ぐジョニー。
笑うリナリー。
呆れるリーバー。
誰も、ブックマンとしてじゃなく。
“ラビ”として接してきた。
仲間として。
当たり前みたいに。
そして。
『……貴方、そんな顔で笑うんだ』
銀色の髪が揺れる。
ティファ。
『ラビって、もっと器用に生きる人だと思ってた』
からかうみたいに笑って、それから少しだけ目を細める。
『でも、そういう不器用なところ……嫌いじゃないわ』
胸の奥が、痛む。
『ラビがブックマンの道を選んでも好きよ』
やめろ。
『その優しさごと、私はラビを好きになったの』
やめろ。
『ラビ』
「やめろ……ッ!!」
ラビが叫ぶ。
耳を塞ぐ。
なのに止まらない。
ティファの声だけが、他の何より鮮明に響く。
“お前はブックマンの継承者であり、それ以外の何者でもない”
ブックマンの言葉が重なる。
“我らは記録の為に、偶々教団側にいるだけだ”
違う。
違うのに。
あいつらといる時、自分は“ラビ”でいられた。
ブックマンじゃなく。
ただ、その輪の中の一人として。
――中でも、ティファの隣にいる時は。
笑うのに、理由なんて要らなかった。
そうして、教団の中での時間が過ぎていくにつれ。
オレは自分の笑い顔がウソかホントかわからなくなってきた。