第40章 【第三十五話】インクの檻
水飛沫が散る。
倒れる音。
悲鳴。
責める声。
全部、聞くな。
聞けば呑まれる。
これは幻だ。
ロードが作った夢だ。
そう繰り返した瞬間――。
不意に、別の光景が割り込んできた。
『貴方方が、ブックマンの血筋の方ですね』
『ああ』
『ようこそ、黒の教団へ』
「っ――!」
頭の奥へ強制的に流れ込んでくる映像に、ラビの呼吸が乱れる。
これは記憶だ。
オレ自身の。
初めて黒の教団へ足を踏み入れた時の。
『科学班室長のコムイ・リーです』
『儂が現ブックマンを名乗る者だ』
視界いっぱいに並ぶ棺。
百を超える死。
泣き崩れる人間。
血と消毒液の臭い。
負け戦の空気。
あの時ラビは、それをただ“記録”として眺めていた。
四十九番目のログ。
ラビという名前も、ただの仮名だった。
偽名の数だけ戦場を見てきた。
歴史から消される裏側を記録する。
そのためだけに、ブックマンとして生きる。
それだけだったはずなのに――。
『サイズ適当じゃ駄目だよ!』
『動きやすい方がいいって!』
『話すのはいいが机に乗るなジョニー!』