第40章 【第三十五話】インクの檻
ほんの一瞬だけ、間が落ちる。
ロードはきょとんとした顔をして、それから嬉しそうに笑った。
「うん♪ いーよぉ」
あっさりと頷く。
それが逆に、不気味だった。
「じゃあ決まりね」
そう言いかけて、ロードはふと、何かを思い出したように首を傾げた。
「……あ、そういえば」
くるりとラビを見上げる。
無邪気な瞳。
「ボク、扉を通る気配って分かるんだぁ」
何気ない声だった。
「さっきまで、あの娘がいた扉ね」
ラビの動きが、止まる。
「二人分、通ってったよ」
空気が、ぴたりと凍った。
「あの娘と……もう一人、誰か」
ロードは楽しそうに足を揺らす。
「ボク、その誰かまでは分かんないけどぉ」
くすくす、と笑う。
「ティファ、もう取り戻せないかもね?」
ラビの呼吸が、止まった。
二人分。
ティファが残った、あの空間。
そこを、別の誰かが通った。
脳裏に、白い髪の男が浮かぶ。
――その時まで、君が“君”のままでいられるといいね。
ヴェイン。
あいつが、ティファを。
「……っ」
指先から、血の気が引いていく。
掴んだはずだった手。
引き戻せなかった腕。
最後に見えた、白銀の光。
あの後、ヴェインがティファを連れ去ったのだとしたら。
「ラビ!」
透明な壁の向こうで、リナリーが叫ぶ。
「惑わされないで! それは、ロードの……!」