第40章 【第三十五話】インクの檻
その瞬間。
空気が歪む。
リナリーとチャオジーの周囲だけが、音もなく切り取られた。
「……っ!」
リナリーが反応するより早い。
透明な壁が閉じた。
箱。
目に見えないのに、確かにそこに存在している。
チャオジーが叩く。
だが音はくぐもり、外へ届かない。
リナリーもすぐに動く。
だが触れた瞬間、弾かれるように手が止まった。
完全に隔離されている。
「今は閉じ込めるだけにしといてあげるぅ」
楽しそうな声。
ラビが振り向く。
ロードが、いつの間にかすぐ横へ立っていた。
無邪気な笑顔。
まるで遊びに誘う子供みたいに首を傾げる。
「ね。遊ぼ」
その瞳には、敵意も殺気もない。
純粋な“興味”だけ。
けれど。
だからこそ、不気味だった。
ロードはゆっくりラビへ顔を寄せる。
「――ブックマン」
その呼び方だけが。
妙に重く、ラビの胸へ沈んだ。
「ラビ!」
リナリーの声が響く。透明な壁越しに、必死に手を伸ばしてくる。
「ごめんね……!」
その言葉に、ラビは一瞬だけ目を細める。
謝る必要なんてない。
むしろ、そう言わせている状況の方が気に食わなかった。
ラビはゆっくりと振り返り、ロードを見る。
逃げられない。
なら、条件を引き出す。
「ノアの一族、長子……“ロード”だっけ?」
軽く言う。
けれど視線は外さない。
「勝ったら、あの二人放すって条件でどうだ」