第40章 【第三十五話】インクの檻
そして。
その先を見た瞬間。
言葉が消えた。
塔だけが残っている。
それ以外は――何もない。
地面も。
街も。
空間そのものが、削り取られたみたいに消失していた。
「……は?」
チャオジーの声が掠れる。
リナリーが息を呑む。
アレンの瞳が揺れた。
ティキがゆっくり振り返る。
「残るは、俺達のいるこの塔のみ」
淡々と告げる。
「ここ以外は全部、崩壊して消えた」
時間が止まる。
次の瞬間、ラビの脳裏へ浮かんだのは。
別の場所へ残してきた三人だった。
神田。
クロウリー。
そして――ティファ。
呼吸が止まる。
胸の奥が、嫌な音を立てて軋んだ。
(……嘘だろ)
脳裏に蘇る。
閉じた空間。
届かなかった気配。
最後に見えた、白銀の光。
嫌な予感が、今になって形を持ち始める。
ラビの顔から血の気が引いた。
だが。
その時。
「……そんなはずありません」
静かな声が響いた。
アレンだった。
目の奥の光を絶やさぬまま、真っ直ぐ前を見据えている。
「ティファ達が、僕らを置いて逝くはずがない」
その声に、ラビの視線が揺れる。
アレンは続けた。
「みんな、必ず戻ると言いました」
拳が強く握られる。
「だったら、僕はその言葉を信じます」
静かな声だった。
けれど、強かった。