第39章 【第三十四話】約束を守るために
自分以外に、セトラの血を残す者がいる。
母を知る男がいる。
そして、その男は、自分の歌が知らない何かへ繋がっていると告げる。
けれど。
「私が知りたいのは……!」
ティファは踏み込んだ。
「あなたの言葉じゃない!」
右のレイピアを突き出す。
ヴェインの姿が歪む。
切っ先は、その胸を捉えたはずだった。
しかし、刃が届く直前、彼の輪郭だけが水面の影みたいに揺れ、攻撃は空を抜ける。
「焦ると、余計に届かない」
低い声。
背後。
ティファは振り返らず、左の刃を逆手に返した。
金属音。
今度は、確かに手応えがあった。
ヴェインの刃と、ティファのレイピアが噛み合っている。
「……ほう」
ヴェインの目が、僅かに見開かれた。
ティファは押し返されながらも、息を整える。
当たった。
完全にずれているわけではない。
ヴェインがこちらへ干渉する瞬間だけ、同じ時間へ重なる。
なら、その一瞬を捉えればいい。
けれど、同時に嫌な感覚もあった。
この空間に立っているだけで、ニルヴァーナが削られている。
彼の時間のずれを追おうとするたび、崩れかけた方舟の境界へ、白銀の光が吸い取られていく。
「……そこに、いるのね」
「気づいたか」
ヴェインの微笑みが、ほんの少し深くなる。
「なら、次はどうする?」