第39章 【第三十四話】約束を守るために
ヴェインの声は穏やかだった。
けれど、その奥にある冷たさが、肌を刺す。
「最後にはもう、僕の声にも振り向かなかった」
ティファの呼吸が止まった。
「僕の母を奪った場所に、君まで立つ必要はない」
ティファは、双剣を構えたまま動けなかった。
湖で聞いた言葉。
母が逃げた理由。
今、目の前の男が語った、もう一人のセトラの末路。
すべてが胸の奥で絡み合い、呼吸を奪っていく。
けれど。
「……違う」
震える声で、ティファは呟いた。
ヴェインの瞳が僅かに動く。
「私は、教団のためだけに歌っているわけじゃない」
ラビの顔が浮かぶ。
アレン。
リナリー。
神田。
クロウリー。
ここまで一緒に進んできた仲間たち。
「私は、私の意思でここにいる」
ヴェインの顔から、微笑みが消えた。
「その意思すら、いつか奪われるとしても?」
「奪わせない」
「君に止められると思うのか」
「止める」
ティファは、一歩踏み出した。
「一人で無理なら、皆が止めてくれる」
「……皆?」
ヴェインの声に、微かな棘が混じる。
「その“皆”は、救いを与え続ける君を、本当に手放せるのかな」
胸の奥が、冷たく揺れた。
すぐには、答えられなかった。