第39章 【第三十四話】約束を守るために
「……輪郭が薄れる、って」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど掠れていた。
「どういう……意味なの」
ラビが、すぐに振り返る。
「ティファ」
その声には、止めたい気持ちが滲んでいた。
けれどティファは、ヴェインから目を逸らせなかった。
ヴェインは静かに続ける。
「君の母親は逃げた。そうしなければ、自分が自分でなくなると知っていたからだ」
呼吸が止まった。
母が逃げた理由。
その輪郭が、初めて別の形を持って目の前に現れた気がした。
「ティファ」
アレンが一歩前へ出る。
その顔には、焦りと警戒が滲んでいた。
「ティファ、その人の言葉だけで判断しないでください。今は――」
「そうだね」
ヴェインが、静かにアレンへ視線を向けた。
「今は、彼女にすべてを聞かせる時間はない」
その言葉と同時に、方舟全体が、悲鳴のような音を立てて大きく揺れた。
「っ……!」
床が波打つように歪み、天井から砕けた石片が降り注ぐ。
扉の向こうへ続いていた回廊の一部が、轟音と共に崩れ落ちた。
「道が……!」
チャオジーが青ざめた声を上げる。
アレンが奥へ続く通路を睨み、拳を強く握った。
「急がないと、先へ進む道そのものが消えます」