第39章 【第三十四話】約束を守るために
ヴェインはそこで、初めてラビへ視線を向けた。
穏やかな微笑みは崩れない。
けれど、その瞳の奥には、何の後ろめたさもなかった。
「伯爵側、か」
静かな声。
「君たちは、まだ世界をそう分けて見ているんだね」
「はぐらかすな」
ラビの声が鋭くなる。
アレンも、左腕へ力を込めた。
「あなたがここにいるということは、ノアと繋がっているんですか。師匠に何をしたんです」
その言葉に、ティファの胸が強く跳ねた。
クロスの薬莢。
湖畔でヴェインが残した、たった一つの手掛かり。
あれが罠だったのかもしれないという考えが、今さらのように背筋を冷たく撫でた。
ヴェインは、わずかに目を細める。
「クロス・マリアンは、まだ生きているよ」
「まだ、だと?」
ラビの声から温度が消える。
ヴェインは答えなかった。
ただ、ティファへ視線を戻す。
「僕がここにいる理由を知りたいのなら、いずれ分かる」
「今、答えて」
ティファは、喉元を押さえたまま言った。
「あなたは、同じセトラだと言った。母を知っているとも言った。なのに、どうして伯爵の側にいるの」
ヴェインの微笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。
「少なくとも、僕の母を奪った場所の側に立つよりは、ずっと自然だよ」
その一言に、空気が凍った。
ティファは息を呑む。
ヴェインの視線が、ティファの喉元へまっすぐ落ちた。