第39章 【第三十四話】約束を守るために
どくん、と。
心臓とは別の鼓動が、身体の内側から響く。
ティファは反射的に、喉元へ手を添えた。
「……ヴェイン」
その名を呼んだ瞬間、アレンの表情が強張った。
「ヴェイン……?」
湖畔の町で聞いた名。
ティファと同じセトラの血を残す者だと名乗り、師匠の手掛かりを残して消えた男。
その男が、なぜ。
伯爵の方舟の中にいるのか。
ここは、ノアとAKUMAの領域だ。
偶然迷い込める場所ではない。
ティファの胸の奥が、冷たく沈んでいく。
湖で出会った時から、ヴェインが危険な存在であることは分かっていた。
アンナの村。
雨の廃遊園地。
あの異常に関わっていたことも、彼自身が否定しなかった。
それでも、どこかでまだ。
同じセトラの血を持つ者なら、完全に伯爵側の存在ではないのではないかと。
母を知っていると言ったあの男の言葉に、わずかでも真実を探そうとしていた。
けれど今、目の前にいるヴェインは。
崩れかけた方舟の奥で、まるで最初からそこに属している者のように立っている。
「……あなた、伯爵側の人間なの」
声が、思ったよりも低く出た。
ヴェインはすぐには答えなかった。
ただ、静かにティファを見ている。
ラビが、ティファの半歩前へ出た。
鉄槌を握る手に力がこもる。
「答えろよ」
低い声だった。
「なんでテメェが、ここにいる」