第39章 【第三十四話】約束を守るために
やがて、リナリーの足が限界を迎えた。
「私、まだ……」
「無理しないでください」
アレンがすぐに支え直す。
けれど、チャオジーが青い顔のまま前へ出た。
「リナリーさんは、俺が背負います」
「チャオジー、君も怪我を……」
「大丈夫っス。俺にできること、これくらいしかないんで」
ラビが短く息を吐き、チャオジーの背を軽く押した。
「無茶すんなよ」
チャオジーは小さく頷き、リナリーを背負った。
「この先です!」
先頭を進んでいたアレンが、声を張り上げた。
霧に覆われた回廊の奥で、一枚の重厚な扉が浮かび上がる。
扉の周囲だけ、方舟の歪みが妙に濃い。白い壁は波打つように揺れ、床には黒い亀裂が走っていた。
「……嫌な感じさ」
ラビが低く呟く。
普段の軽い調子はない。鉄槌を握る手には、既に力が込められている。
チャオジーに背負われたリナリーも、息を詰めた。
「この先に、ロードたちが……?」
「分かりません。でも、道はここしか残っていない」
アレンが扉へ手を伸ばした、その瞬間だった。
霧が、裂けた。
扉は、誰も触れていないのに、内側から押し開かれるようにゆっくりと開いていく。
その向こう。
白く濁った空間の中央に、一人の男が立っていた。
ティファの足が、止まる。
見間違えるはずがなかった。
灯籠の湖で、沈んだ鳥居の上からこちらを見つめていた男。
白に近い髪。
淡い色の外套。
穏やかでありながら、何ひとつ心の内を映さない瞳。
「……また会えたね」
低く落ちた声に、喉の奥でニルヴァーナが強く脈打った。