第38章 【第三十三話】信じることの重み
けれど。
神田は、ぴくりとも表情を変えない。
「あっ、タメ息ついてるよ」
「ったく、やってらんねーさ!」
皆の怒声が飛ぶ。
リナリーは唇を尖らせたまま、小さく呟いた。
「……神田っ」
神田は返事をしない。
「ちゃんとあとでついてきてね」
静かな声。
「……絶対だよ」
神田の背中が、ほんの僅かに止まる。
その時。
「……待ってるから」
ティファが静かに口を開いた。
神田が僅かに反応する。
「だから、必ず来て」
数秒の沈黙。
神田は何も言わなかった。
ただ一瞬だけ、横目でティファを見る。
ふと、ティファの視線が、神田の髪を結ぶ細い紐へ落ちた。
「……それも、まだ返してもらってないわ」
神田の眉間に、かすかに皺が寄る。
「ちゃんと後で返しに来てね」
短い沈黙。
神田は低く息を吐いた。
「……言われなくても返す」
それだけ言うと、六幻を握り直す。
「わかったら早く行け」
もう振り返らなかった。
扉が閉じる直前。
ティファは、もう一度だけ振り返った。
白い闇の向こう。
六幻を構えた神田の背中が、遠ざかっていく。
「……神田」
小さく零れた声は、崩壊音に掻き消された。