第37章 【第三十二話】闇に沈む江戸
ラビがそんな周囲を見渡し、小さく息を吐く。
「……とりあえず、伯爵達は退いたみたいだな」
完全に終わった訳ではない。
けれど今は、束の間の静寂だった。
ティエドールが周囲を見回す。
崩壊した橋の陰。
辛うじて形を残している建物を見つけ、静かに言った。
「ひとまず、あそこで休もうか」
誰も反対しなかった。
皆、限界だった。
一行は瓦礫を越えながら、残った建物の陰へ移動する。
たどり着くと、ラビはそっと、気絶したままのリナリーを横たえた。
壊れかけた柱の影。
少しでも風が避けられる場所。
少し離れた場所で、神田が鬱陶しそうに髪を払った。
戦闘の中で切れたのか、いつも結ばれている黒髪が肩へ乱れている。
「……おい、ティファ」
低い声に、ティファが顔を上げた。
「何か、紐ねぇか」
「髪紐?」
「戦闘で切れた。邪魔だ」
ティファは少しだけ瞬きをしてから、袖の内側に入れていた予備の髪紐を取り出した。
「これでよければ」
神田は無言で受け取る。
「……借りる」
それだけ言うと、神田は背を向け、乱れた黒髪を手早く結び直した。
その様子を、ラビが横目で見ている。
「……ユウが人に物借りるとか、珍しいさ」
「うるせぇ」
「はいはい」
ラビは軽く肩を竦めた。