第37章 【第三十二話】闇に沈む江戸
黒の圧が、ふっと途切れた。
ティファの光膜が、音もなくほどける。
ミランダ達への直撃は、もうない。
けれど次に伯爵が狙ったのは――結晶の中のリナリーだった。
ティファは顔を上げた。
本能が叫ぶ。
――駄目だ。
ティファは地を蹴った。
「伯爵!!」
白銀のレイピアが閃く。
だが。
『無駄ですヨ♡』
白い腕が、ティファを薙ぎ払った。
「ぁ――ッ!!」
凄まじい衝撃。
ティファの身体が吹き飛ぶ。
地面を転がる。
喉が焼ける。
呼吸ができない。
「ティファ!!」
ラビの叫びが遠い。
その間にも。
伯爵が、結晶の中のリナリーへ手を伸ばす。
リナリーの顔が恐怖に歪んだ。
「いや……っ!!」
黒が迫る。
誰も間に合わない。
その瞬間だった。
「――こんばんは。伯爵」
静かな声。
伯爵の動きが止まる。
リナリーの後ろ。
白銀の髪。
そこに立っていたのは――
アレン・ウォーカーだった。
黒く抉れた大地に、冷たい風が吹き抜ける。
伯爵の一撃によって、街は跡形もなく崩壊していた。
地面から突き出した巨大な結晶だけが、淡い光を放ちながら静かに脈打っている。